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『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』全体レビュー(ネタバレ抑え目) 

去る5月12日に発売した『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下『TotK』)のレビュー。

ゼルダのアタリマエを見直す」というコンセプトで作られた傑作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017)(以下『BotW』)をベースに、従来のゼルダに近くストーリーやダンジョンの比重が大きくなり、それでいて規模が大幅に拡大した本作は間違いなく、筆者の人生で遊んだ中で最も面白いゲームの一つ。

元々私がリニア好きなのもあるが、これがリアルタイムで何の評判も聞かずにプレイする初のゼルダなので『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998)を発売当時にプレイした人の気持ちがわかったような感覚だった。

本記事ではこのゲーム全体についての私の感想を述べることにして、ネタバレについては序盤~中盤までに抑えようと思う。ストーリーや設定については別記事で語ることにする。

前作よりも広大・高低差のあるフィールド

本作は当初『BotW』の続編として発表されており、前作の世界を引き継ぐことがわかっていた。前作は探索が最大の楽しみの一つだったが、マップを引き継いだ『TotK』における探索が目新しさを欠いたものになってしまうことを懸念する声も多かった。しかしそれは全くの杞憂だった。

広大なハイラルの大地に加え、トレーラーで印象的に映っていた空島の数々、そして地上と同じ広さの地底世界の3層からなる本作のマップは、広さだけで言えば前作の倍以上という破格のボリュームを誇っている。

その規模もさることながら、本作のマップが何より素晴らしいのは3つの層がシームレスに繋がる重層的な構造。前作『BotW』における探索は、山の頂上から谷底まで、目に見える場所ほとんどすべてをくまなく探索できることが何よりの魅力だった。そのような高低差を活かした探索の流れを汲みながら、別次元といえるほどに拡張したことが本作の最大の魅力だと思う。

空島

空島では地上には見られない植生、ゾナウ文明の遺跡やゴーレムが存在する。

稲穂を思わせる黄金色の景色が印象的で、個人的には黄色基調という点でセピア色が印象的な『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』(2006)を思い出した。あれよりも明るく、それこそ天国のような幻想的な雰囲気がある。

ゾナウ文明の遺跡は石造りで、古代シーカー文明のものより遺跡感がある。遺跡のギミックは建物の一部を動かすような大規模なものが多く、『時のオカリナ』を始めとした歴代ゼルダの神殿を思わせる。

空島は全体的に見ればチュートリアルのための「始まりの空島」以外はまばらで、広さはそこまでではない。前作の祠チャレンジのような謎解きやアクションのためのフィールドといえ、遺跡片や鳥望台(後述)を用いて地上から飛び上がって都度訪れることがほとんどだろう。

地底

ハイラル城地下のミイラを発見するオープニングから地底世界の存在は予想していたが、まさか地上と同じ広さのマップが用意されるとは…。

天変地異によって各地に空いた「深穴」に飛び込んで入る地底世界は普段は真っ暗闇で、触れ続ければ体力の最大値が減少する「瘴気」が地表を覆っている。そのためアイテムなどで明かりを灯しながら瘴気を避けて進むという、地上とは一味違う探索を求められる。各地に点在する「根」を開放することで周囲が照らされ、マップが記録される。根の位置は地上の祠に対応しており、地上と地底の探索は相関関係にあると言える。

洞窟と井戸、鳥望台

地上にも前作から変化があり、洞窟や井戸の中などの地下空間が新たな遊び場として追加されている(私が当初想定していた地底はむしろこっち)。枝分かれした道や不安定な足場など、こちらは旧作ゼルダを思い出すアスレチック的な遊びごたえがある。

前作のシーカータワーに相当する「鳥望台」は、リンクをはるか上空に打ち上げ、プルアパットで直接撮影した情報をマップとして記録するというとんでもない施設。ばかばかしさとロマンの合わさったその演出もちろん魅力的だが、機能面でもシーカータワー以上に重要。リンクがかなりの高度まで射出されるため、空島への主要な移動手段となる。また、前作から長距離移動にはうってつけだった「高所からの滑空」がこの施設により格段に使いやすくなっている。

その他にも、主要拠点となる「監視砦」がハイラル平原に建設されており、既存の集落にも様々な変化が起きており、前作との比較も楽しみの一つ。

アクション

前作の謎解きに用いられていたシーカーストーンの能力に相当するものが本作にも存在する。リンクの右腕に宿った特殊能力は前作の比較にならない程強力で、どれもが移動や戦闘に幅広く応用が可能なので、一つの課題に対して複数の答えが用意されているのがもはや当たり前になっている。

何が凄まじいって、あらゆる地形やオブジェクトに干渉できることが売りの『BotW』のフィールド一つだけでもいちゲームのテーマになりうるとんでもない自由度の能力を複数同時に実装していること。どれもこれもがバグの温床だろうに、普通に動いているだけでもすごいのに、本当に大抵の思ったことは出来てしまう

見た目のインパクトも前作以上で、カッコいいアクションやばかばかしい武器や乗り物がいくらでも生み出せる。個人的に前作の探索・アクションは少し地味でスローな印象があったので、これは本作の特殊能力が特に自分好みな点。

トーレルーフとダイビング

なんともバグじみた絵面だが、紛れもなく正規の能力。

天井がある場所から上の階層へと潜り抜ける「トーレルーフ」。洞窟から山頂まで一気に移動したり、直上に並ぶ空島を飛び移ったりと破格の移動性能を持ち、条件さえそろえば崖登りとは比べ物にならないスピードで上昇することができる。また祠やダンジョンがこの能力を前提にした重層的な構造になっており、謎解きの複雑化にも大きく寄与している。恐ろしいことに材質によって潜り抜けられないということがなく、後述のスクラビルドやゾナウギアで作り出した足場をも潜り抜けられるので、何もない場所を登るような動きさえ可能である。

大地が近づいてくる感動。

また、本作は落下する際に手を広げる専用のモーションが追加されており、Rボタンで加速することができる。単なるモーション追加に思えるが、前述のように高所からの滑空・落下は有効な移動手段であり、豊富な上昇手段に対して加工手段はパラセールによる滑空とダイビングの2択しかない(そしてがんばりゲージの関係でパラセールを広げ続けることはほとんどない)。そのためダイビングを行う機会は非常に多く、そこに専用のかっこいいモーションが追加されたことで探索に前作にはない爽快なスピード感と緩急が生まれている。

舞い上がった水しぶきが小さな波紋を描く。

チュートリアルからタイトルロゴ、地上への降下時など印象的な場面で繰り返し使用することになる。また、落下のダメージを緩和するために着水するよう誘導されるのだが、前作にはなかった水しぶきの演出が本作では追加されている(これは筆者の友人がトレーラー時から注目していた点で、ダイビングの強調され具合を思うと慧眼だった)。さらに、上昇気流の中ではパラセールが上昇手段になるので、前作を象徴するパラセールと対を成すアクションともいえる。パラセールともども、特殊能力ではない単なる移動手段をここまでかっこよく、作品の顔として演出できるのは流石としか言いようがない。

ウルトラハンドとゾナウギア

定番の造形物である飛行機。

ウルトラハンド」は所謂クラフト要素で、物と物を接着して新たな物を作る能力。各地に設置された資材や丸太、果ては武器やアイテムまで様々な物を接着することができ、かなりの自由度がある。それでいて接着できる角度や位置が決まっており、過度に精密な操作を求められることもない絶妙なバランス感で、クラフト系ゲームになじみのない筆者でも抵抗なく遊ぶことができるのが嬉しかった。

この能力、組み立てる際に対象物を持ち上げて動かすので、この時点で射程の短さ以外は前作の「マグネキャッチ」の上位互換であるというとんでもなさ。本作の自由度が前作とは別次元だということを思い知らされる。

この能力が真価を発揮するのは、バッテリーを消費し様々な機能を発揮する「ゾナウギア」を使用したとき。トレーラーではスクリューのついたイカダやタイヤで走る飛行機、ハンドルで操作するロボットのようなものまで確認できたが、ゲーム本編に登場するゾナウギアの機能は想像を大きく上回り、前作のシーカーストーンの能力並みの利便性を持つものがいくつもある。特筆すべきはその数、ゲーム中盤まで種類が増え続け総数はなんと36種類。しかも携帯可能なカプセル版まで存在し、旧作ゼルダでダンジョン一つを支配していたようなギミックが持ち運び・組み合わせ可能という、まさに無限大の可能性を持った能力である。

スクラビルド

冒頭に起こった天変地異による瘴気で朽ちてしまった武器の攻撃力を補う能力が「スクラビルド」。武器や盾の先にアイテムや別の武器を接着し、攻撃力や射程、耐久力を補うことができる。また、矢の先にアイテムを接着して撃つことも可能で、前作ではそれなりに貴重だった属性武器・矢がその辺にある木の実や魔物の素材から作れるようになったのが大きい。素材の中には特殊な効果を発揮するものもあり、戦闘の幅が格段に広がっている。

画像は「火炎の実」だが、炎の矢を作れる素材は他にもある。

武器を敵から奪っては使い捨てる方針は前作からだが、最終的には強い武器を予め蓄えておくような戦い方になってしまい、上手く落とし込めていないと筆者は感じていた。スクラビルドによる武器の使い捨てのサイクルの短縮化とバリエーション豊かな戦闘で本作では上手く昇華されている。

地味に嬉しいのが、十字キー上にアイテム使用が割り当てられたこと。前作ではシーカーストーン能力の切り替えが割り当てられていたが、これは個人的には混線を起こしがちで好きじゃなかった。本作では右腕の能力の操作がLボタンに集中し、各十字キーが消耗品の切り替えという点で一貫するようになり、直感的に操作できるようになった。

モドレコ

選択した物体の時間を戻す「モドレコ」はいかにも謎解き用の能力だが、効果範囲の広さと巻き戻し時間の長さがかなりのもので、そして例によって様々な物に使用することができ応用の幅がある。

空から落下してきた遺跡片に使用することで、足場として空まで運んでくれる。一部の敵の攻撃に対しては、そのまま攻撃として返したり、高所の敵へ近づくための足場として利用できる。さらにウルトラハンドなどで自分が動かしたものの動きもしっかり巻き戻すことができるので、ちょっとしたミスのリカバーからインチキっぽい動きまでかなりのポテンシャルがありそうだ。

設定・ストーリーなど

王道のストーリー・ダンジョン

本作は自由探索型の『BotW』をベースにしつつ、ストーリーやダンジョン攻略に重きを置いており、冒頭でも述べたように従来の3Ⅾゼルダに近い印象を受ける。

本作のストーリーは、冒頭で行方不明になったゼルダの捜索と復活したガノンドロフの打倒という最終目的が明確であり、チュートリアル終了後も地上の各地方で起きた異変を解決するよう誘導される。

各地方で攻略することになるダンジョン「神殿」は、ゾナウ文化と各地方ごとの特色を併せ持った巨大な建造物である。前作の「神獣」はモチーフの動物しか外見上の差異がなかったのが不満で、所在・形状・サイズ感に様々な個性の出た神殿たちは、特に初見時はその美しさに感動した。

続編ならではの捻り

一方で本作、シリーズでも数少ない直接の続編ということを活かして、攻めた部分も多い。

トレーラーでも印象的な、右腕とマスターソードを失い髪を下したリンクの姿は、傷ついたヒーローが好みの私にはかなり刺さるビジュアル。前作での活躍を踏まえればこそそのリンクが力を失う今回の敵の危険さをが伝わるというもの。

その一方で、リンクを支える環境がかなり整っているのも本作ならではの特徴。瘴気の調査のために新たに建造された監視砦、各集落もそれぞれ事件に主体的かつ組織的に対抗しようとしているというのはシリーズでもかなり珍しい。厄災の去ったハイラルでは復興が進んだからこそ映える描写だと思う。

総評

3層からなるフィールドは前作の高低差を活かした探索を別次元にまで拡大し、万能ともいえる特殊能力の数々は視覚的な面白さも際立っている。それでいて前作よりもストーリーの比重が大きく、革新的なボリュームと自由度を持ちながら王道を往く本作はかつての『時のオカリナ』もかくやと思わせる会心の1作。

冒頭でも述べたが、ネタバレ込みでストーリーや設定について語る記事も後日アップするので、読んでいただけると嬉しい。