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『スプラトゥーン3』レビュー:バンカラ街というテーマパーク

概要

今回は9月9日に任天堂から発売されたNintendo Switch用ゲームソフト『スプラトゥーン3』をレビューする。前作『スプラトゥーン2』から5年ぶりの新作である本作は、筆者にとって何度でも訪れたいテーマパークのような存在になった。

遊びやすくなったガチマッチ

前作から「バンカラマッチ」へと名を変えたガチマッチには、新ルールの追加はなく試合内容にほとんど変化がない。一方、周辺システムには数多くの新しい仕様が追加され、格段に遊びやすくなっている。

ウデマエが数値で表示されるようになり、昇格までに必要なポイントが正確にわかるようになった。そして、保持ポイントが減って昇格ラインを下回ってもウデマエが下がらなくなり、同シーズン内で到達した最高ウデマエが自動的に維持されるようになった。

また、試合終了後に表彰が与えられる。この表彰は個人の試合への貢献度を踏まえて与えられ、貰った数、種類によってウデマエポイントが加算される。

他にも、待ち時間中の試し打ちが可能になり、ゲーム内で試合を動画として保存・共有する「バトルレコード」の機能が追加されるなど、練習や復習がしやすくなっている。

全体として、チームの勝敗だけでなく個人の貢献や向上心も尊重しており、向上のための便利な環境づくりとストレスの軽減を意識していることがわかる。

旧作のいいとこどりのヒーローモード

一人用モードの「ヒーローモード」は、旧作のヒーローモードと前作の有料DLC「オクト・エキスパンション」の要素を合わせたものとなっている。

マップを移動、探索してステージに侵入する形式はヒーローモードを踏襲している。また、登場キャラクターもカラストンビ部隊の面々が続投している。

一方、ステージ選択後に使用武器を選択する、挑戦するためにポイント(イクラ)が必要になるステージがあるなど、ステージ内の仕様はオクト・エキスパンションと同じものである。単なるオクタリアンとのナワバリ争いにとどまらない、壮大な秘密を巡るストーリーもオクト・エキスパンションに近い。

また、こちらのモードもカジュアルプレイとやり込み双方への配慮が尽くされている。

今作ではフィールドマップが有害な「ケバインク」に覆われており、ステージをクリアすると入手できる「イクラ」を消費してケバインクを消し、次のステージや次のエリアへの入り口を開放していく。これによりすべてのステージをクリアせずとも次のエリアに進むことができ、エンディングだけを目指すのであればそこまで時間はかからない。更に、前作まではステージ内に隠されていた「ミステリーファイル」が今作ではフィールドマップに隠されており、ファイルのためだけに繰り返しステージに挑戦する必要がなくなった。

一方で、ステージの中にはかなり高難度のものもあり、探索要素も豊富なのでやりこもうと思うとかなりのボリュームがある。

バトル以外の遊びの増加

バトル以外の遊びやコレクション要素も充実している。

ナワバトラー対戦画面。塗りつぶすマスの範囲が異なるカードを使い分ける。

バンカラ街の裏通りにある広場では「陣取大戦ナワバトラー」というカードゲームで遊ぶことができる。自軍のカードに隣接する形でカードを配置していき、最終的により多くのマスを塗りつぶした方が勝つ、名前の通りの陣取りゲームである。

プレイヤーが装備する「ギア」についても新要素が追加されている。

バトル中に様々な効果を発揮するギアパワーについて、前作までは付け替えられるのはサブのギアパワーだけだったが、今作ではメインの付け替えも可能だ。これによって、自分のファッションセンスとプレイスタイルをより妥協無く両立できる。

扉だけで個性が際立つロッカーたち。

また、ロビーの一角にあるロッカールームでは、自分のロッカーをカスタマイズして他のプレイヤーに公開することができる。ロッカー内にはブキやギアだけでなく、街にあるザッカ屋で購入したオキモノやステッカーも自由に飾ることができる。ロッカーはギアとも違いバトルに一切影響を与えないので、自分の個性を全開にして見せびらかすのが楽しい。

バンカラ街の魅力

フェス中のバンカラ街。電光掲示板が眩しい。

本作のバトルは前作までの楽しさをそのままに、より少ないストレスでより向上心を持ってプレイできるような環境が整えられている。しかし本作が何よりも筆者を魅了した点はそこではない。それは、バンカラ街が体現するイカたちの文化とそこへの没入体験である。

前作のハイカラスクエアは、スプラトゥーンらしい派手で可愛らしいデザインが魅力的な半面、広場の取り囲むように店やロビーの入り口が配置されたハブとしての機能が優先された構造だった。

バンカラ街は違う。前項で述べたようにバトルとは関係のない豊富な遊びが用意されている。それだけでなく、急速に発展中という設定にふさわしく、空間的な余白が非常に多く無計画な開発の跡が見て取れる。ゴミもそこら中に捨てられている。

この街の退廃した有様が、享楽的なイカたちの文化の発露として私にはとてもしっくりきた。

また、ロビーの変化も見逃せない。前作はロビーの入り口に入るとロビーメニュー画面に移動し、試し撃ち場はどこにあるかもわからず出入り口もない異空間だった。

今作のロビーは、ロビーメニューを開くポッドと多機能ディスプレイ、試し撃ち場に売店、さらにはガチャガチャやロビーといったバトルと無関係な施設、挙句の果てには何の機能もないカフェやDJルームまで備えた複合施設になっている。わざわざ歩いて移動してこれらの設備を利用する体験は、メニュー画面から選択するだけでは得られない没入感をもたらしてくれた。

バンカラ街はスプラトゥーンらしいポップなデザインだけでなく、空間的な余白や移動の煩雑さといった機能性とは相反する要素を効果的に取り入れることで、よりイカらしい享楽的な空気を醸成し余すところなく味わわせてくれる、テーマパークのような場所である。

総評

以上、スプラトゥーン3はシリーズのゲーム性の中核をなすバトルの楽しさを損なうことなく遊びやすいように最大限の工夫が凝らされている。それだけでなく、単に機能性を追求するのではなく、あえて余白や煩雑さを取り入れたバンカラ街はこれまでにない没入感を提供してくれる。

 

実は筆者は昔、対戦ゲームに苦手意識があった。それでもスプラトゥーンの世界観にはとても惹かれるものがあったので、友人が始めたのをきっかけに自身もスプラ2を購入した。結局は対戦ゲームの楽しさも腹立たしさも知り、今ではやめられなくなってしまった。今作スプラ3は、筆者がスプラを始める前に求めていたものと始めた後知った楽しみを両立した夢のような作品だといえる。リアタイできてよかった。