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『シン・仮面ライダー』感想:スッキリはしないが好きな映画

映画『シン・仮面ライダー』の感想。庵野監督による日本特撮作品の3度目のリメイクにして、現状最後の作品。

率直に言って問題だらけの作品だが魅力がない訳じゃない。その魅力も突き抜けたものとは言えないながら、しかし鑑賞後には何故か清々しさが残った、そんなよくわからない映画。まあ私は庵野作品が好きだし仮面ライダーが好きなので、相当な文脈と忖度の上で欠点を見逃している自覚はあるのだが。

以下ネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダー

仮面ライダーがかっこいい。これは本作最大の魅力である。

同じく萬画版を強く意識した『仮面ライダー THE FIRST』(2005)と比べるとアレンジは抑えめであるが、より荒々しく洗練されていない泥臭さが特徴。また、マスクとバイクの描写はかなり力が入っており、「仮面ライダー」の名を忠実に体現しようとしている。

「ガワ」への原点回帰

TV版に忠実にディティールを追加したようなデザインは原典の秀逸さを再確認させるものではあるが、これ自体が飛びぬけて魅力的なわけではない。

重要なのは、ほとんどのシーンでスーツアクターではなく俳優自らがスーツを着て演技をしていることだ。型にはまらず、ときに不格好にさえ映る「中に人がいる」感が、元々あった不気味さを再解釈した異様な存在感を生み出している。

シン・ゴジラ』(2016)も『シン・ウルトラマン』(2022)も、モーションキャプチャーを利用した人っぽさが不気味な魅力を醸し出していたが、本作ではついにガワという特撮の原点に回帰し、人っぽい不気味さを最大限に発揮している。また、飽くまで別の生物であった前2作と違い設定からして人間が着るスーツなので、俳優が入ってアクションを行うことに必然性があるのもいい。

なお後述するが、私は本郷猛が変身する仮面ライダーについてどうしても「第1号」という呼称を使いたくない。かといって「仮面ライダー」だと一般名詞と区別がつかないので、便宜上「本郷ライダー」、合わせて第2号を「一文字ライダー」と呼ぶことにする。

不気味なデザイン

彼らの仮面に共通する構造として、首元が大きく開いており、髪や肌が露出する。それにヘルメットのサイズが大きいのかずれたり傾いたりするので、どこを見ているのかわからないような瞬間がある。喋るのに合わせて顎(クラッシャー)も動き、まるで髑髏のようで気持ちが悪い。

また、彼らの台詞はマスクを着けたまま話している声をそのまま録音しているようで、はっきり言って聞き取りづらいが、それも味わい深かった。

本郷ライダーと一文字ライダーはそれぞれコートを羽織った姿も登場する。ダークヒーロー的かっこよさと不審者のような不気味さを兼ね備えており、本作の仮面ライダーたちによく似合っている。私はアメコミ映画でたまに見るヒーロースーツ(マスク)×普段着の組み合わせが大好き(ナイトメアバットマンとかロールシャッハ、ルッキングラス)なので、仮面ライダーでもこれが見られて嬉しかった。

鬼気迫るアクション

大きくはみ出した癖毛が特徴的な本郷ライダーは小柄ながらがっしりしていて、力でねじ伏せる暴力的な戦い方でハチオーグ戦まではほとんど苦戦せず2、3発の攻撃で勝利しており、暴力装置としてのバッタオーグの危険性が伺える。特に印象に残っているのが返り血を浴びて戦闘員を殴り殺した後、宙返りで移動するシーン。仮面ライダーらしいスタイリッシュな動きが、バイオレンスの後だとこれほど異様に映るものかと感心した。

対照的に一文字ライダーは長身痩躯で短髪。やや姿勢が悪い細身のシルエットと、髪がない分首が細く、頭部が大きく見えるので、都市伝説の怪人やエイリアンを連想しかなり不気味。戦い方も対照的な敵の攻撃を機械的に受け流すスタイルで、K・Kオーグ戦では棒立ちのまま彼の仮面と鎌を破壊し完封した。

バイクシーンが多用されているのも好きな点。この映画自体がバイクに始まりバイクに終わり、ロケーションも印象的なものばかりで、バイク乗りではない私でも思わずバイクに乗りたくなる。ドラマ面でもマフラーがヒーローの象徴として扱われ、バイクも本郷とルリ子、緑川親子、本郷と一文字など人と人を結ぶキーアイテムとなっている。

物足りないCG

CGシーンは主に、仮面ライダーや怪人の改造人間としての能力の高さを描くのに用いられている。

TV版初期・萬画版をオマージュした、本郷ライダーのバイクに乗りながらの変身はとてもかっこいい。複雑な変形シークエンスや過剰気味な速度感が外連味たっぷりでいい。

またライダーキックもシンプルながら迫力があり、ただの飛び蹴りで人を殺すとはどういうことなのかということを突き詰めたような加速感がある。特にクモオーグ戦の、、派手なエフェクトなしで青空をバックに、8本の手足をはためかせながら高空から落下するキックはこれが見たかった!という満足感があった。

しかし、それ以外のCGアクションシーンは不満だった。CGモデルの質感や動きは悪くはないものの、やはり長時間続けて見るのは厳しい。生身のアクションでは特徴的な細かいカメラの切り替えがなくなっているのも冗長さの一因だろう。クモオーグ戦のライダーキック後に実写の宙返りを入れたように、実写とCGを交互に使ってくれればまだ見やすかった。

アングルの切り替えが多い大量発生型相変異バッタオーグとのバイクチェイスはなかなか楽しめたのだが、如何せん画面が暗く見づらいのが難点。またバイクを降りてからの格闘戦がやはり厳しかった。

萬画版のオマージュ

私は石ノ森章太郎萬画版「仮面ライダー」が好きなので、萬画版をオマージュしたシーンが多くて楽しかった。

特に、一文字による仮面ライダー継承萬画版でも一番好きな展開なので、それがラストシーンに使われたのには感動した。新2号ではなく新1号をモチーフにしていて、本郷ライダーとも一文字ライダーとも違う新しいライダーとして解釈しているのもいいアレンジだった。

そもそも萬画版での一文字は飽くまでもう一人の「仮面ライダー」であり、2号と呼ばれたことはない。1号2号という呼称は特撮版で二人を区別するための呼称であり、見方によっては本郷と一文字の間に序列をつけているようで、一文字のファンとしてはもどかしく思っていた。

だから私は、本作がただの一度も「仮面ライダー第1号」という呼称を使用していないことに多大な信頼を寄せている。1と2だと序列っぽいが、「仮面ライダー」に対する「第2号」ならば、「もう一人」というニュアンスを感じる。

一文字のキャラクターも良かった。飄々とした言動と内に秘めた信念の強さの二面性が萬画版っぽい。好きかどうかが行動基準というのはシンプルでいいし、そうはいいつつ恩義に報いる義理堅さも見せるギャップが素敵。独白や説明台詞が多い中で、きちんと一文字の機微を表現している柄本佑の演技も素晴らしかった。

庵野秀明作品として

本作はシン作品群の中でも一際庵野秀明らしい、身も蓋もない言い方をすれば最もエヴァっぽい作品だ。私は庵野作品が毎回エヴァっぽくなることについてはもう慣れたというか諦めたというかといった感じだが、別に嫌いではない。好意的に見ればむしろ本作は、庵野秀明の世界観がこれまでになくマッチしている作品だという感覚がある。正直上手く考えがまとまっているとは言い難いが、書いていく。

オーグと仮面ライダー

本作における怪人=オーグは個人のエゴのために力を使う存在であり、対する仮面ライダーはその力を多くの力無き人々のために使うことを願って作られている。大雑把に言ってしまえばオーグと仮面ライダーを分けるのは「他者性の有無」だといえる。しかし、本作、もっと言えば庵野作品の世界観はむしろ「他者性の欠如」が何よりの特徴である。

仮面ライダーが守るべき他者を描いていないのは不備というよりは自覚的、何なら自虐的とまで言えるかもしれない。緑川博士の言う「多くの力無き人々」はほぼ登場しない。また、ルリ子が父に見せられたという外の世界も、どのようなものか全く描写されない(できない)。具体的に描写することがないにも関わらず、本作はしつこいくらいに他者の存在に言及している。

まるで形だけ真似ても本質が理解できていない、仮面ライダーになりたがる怪人のようだ。ヒーローになろうとしてもなれない苦しみか、むしろ自分と決定的に違うが故の羨望かは定かではないが、本作には庵野監督の仮面ライダーへの屈折した、しかし切実な憧れが表れていると私は感じた。

庵野作品の意図を深読みしすぎると堂々巡りになって訳が分からなくなるのでこの辺にしておく。あまり整理できていないが無理矢理まとめると他者性を欠いた世界観で弱者を守るヒーローを描くという矛盾が面白くて、私はそこに仮面ライダーへの強烈な憧れを見出したということだ。

石ノ森キャラクター達の役割

そう考えると石ノ森作品を意識した本作オリジナルの登場人物たちにも、単なるオマージュ以上の意味をこじつける見出すことができる。

全人類との心中を企てるオーグの権化のような人物でありながら仮面ライダーを名乗る緑川イチローは、ある意味本作を象徴する人物なのかもしれない。盛りに盛った設定も深い意味があるわけじゃなく、ごっこ遊びをする子供そのままの無邪気な憧れの表れにも見える。

仮面ライダーの戦いを無感情に観測し続けるアンドロイドのKは、非人間的な世界観のフィルター、あるいはそのフィルターを通して物語を追う観客のメタファー。最終的に人間になってしまったキカイダーと、機械として生きることを選んだロボット刑事。それぞれをモデルにした「J」と「K」のうち後者が採用されていることも、本作の世界観と無関係ではないと思う。

まとめ

今回は好きなところばかりを語ったものの、最初に述べた通り問題も山積みな作品なので、かなり悩まされた。考えすぎてよくわからない感想になってしまっているけど、仮面ライダーのかっこよさ、そして庵野監督の仮面ライダーへの愛情の強さが見れたので満足なのは間違いない。

次回作は仮面ライダーに加えて、戦闘モードにアップデートしたK、良心回路を組み込んで再起動したJ、電気の力を加え防護服も不要なほどの強化を施した第2チョウオーグでチームアップして「シン・石ノ森アベンジャーズ」とかどうだろうか。