お前も茶漬けにしてやろうか!-茶柱の人生丸茶漬け-

見た作品のその時々の感想置き場

『ULTRAMAN』感想

 『シン・ウルトラマン』の影響で、2004年公開の映画『ULTRAMAN』が注目を集め、AmazonでDVDが売れていると聞いた。俄かには信じがたいが、自分も大好きなこの作品を今一度鑑賞したいと思い、幸運にも近所のレンタルビデオショップにて借りられたので、『シン』鑑賞前後での視点の変化も含め感想を記録しておこうと思う。なお、DVDは購入しません。Blu-ray化や配信開始に望みをかけたいから。

 設定やストーリーの面で原作に極めて忠実なリメイクである『シン・ウルトラマン』が賛否を呼んだ結果、より現実に即した再解釈を試みた、いわば真逆のアプローチを行ったという点で本作が注目を浴びるというのはなかなかに興味深い。面白いことに翌2005年には『仮面ライダー THE FIRST』が、海外では『バットマン ビギンズ』が公開されており、リアル・ダーク・シリアス路線のリメイクはこのころ盛んだったようである(仮面ライダーだとむしろ1992年に発売された『真・仮面ライダー序章』の方が近いかもしれないが)。

 

以下ネタバレ注意。

 

 本作におけるウルトラマンはより生物的な外見をしており、初代ウルトラマンの体色の赤や銀をそれぞれ筋肉や甲殻のように用いてデザインされている。カラータイマーに当たるエナジーコアも常に赤色でハート形を思わせる形をしており、危険時には脈拍音に似た音を放ちながら脈打つように点滅する。また、不完全体である「アンファンス」は初代ウルトラマンの初期のしわしわの顔、いわゆるAタイプを思わせるデザインである。

 少し話はそれるが、本作や『ウルトラマンネクサス』におけるウルトラマンの在り方について話したい。彼が人類に与えるのはスペースビーストと戦う力のみであり、それ以外の干渉はほとんど行わない。これらの作品で人間の社会的・肉体的問題を解決するのは飽くまでも当事者たちであり、ウルトラマンは彼らに希望を与える存在として描かれる。本作においてもウルトラマンは継夢の病気を治療することはしないし、『ネクサス』においても憐はデュナミストであるにもかかわらず自身の肉体的欠陥を克服できない。これは、『シン・ウルトラマン』を含む多くのウルトラマン作品で言及されるウルトラマンによる人類への過干渉への問題意識を具体的かつシビアに実践していると言え、ウルトラNプロジェクトにおける再解釈の最も有意義な点であると私は考えている。以下、本編の感想に入る。

 今作のウルトラマン映画としての最大の問題は盛り上がりが少ないことだ。ウルトラマンが戦うシーンが全97分中2回しかないというのは2004年だとしても少なく、2年後の『ウルトラマンメビウスウルトラ兄弟』は93分の長さで計5回の戦闘シーンがある。また、人間側のドラマも暗くはないがトーンが重く静かで、自衛隊描写も平成ガメラなどと比べると薄めだ。これではウルトラマン映画を鑑賞しに劇場に来た客、特に子供の心を掴むのは難しいのではないか。

 家族や恋人への愛を中心とした本作の人間ドラマはウルトラシリーズにおいては斬新ではあったが、全体的に平凡である。多忙な父と重病を患う息子、そしてそれらの困難に直面しながら気丈に生きる母の一筋縄では行かない距離感は魅力的だが、最大の当事者である母の掘り下げが不足しているためいまいち共感しきれない。息子も父親である真木の夢のために自己犠牲的な発言までするなど、都合のいい存在として描かれ過ぎている。ただ、甘い理想主義ではなく妥協点に落ち着く様は現実味があっていい。(息子の鶴の一声で真木が復隊、息子も奇跡的に持病を克服しお母さんもニッコリ、みたいになると最悪。)先述したNプロジェクト作品に共通するスタンスにも合っている。

 ザ・ワンの描写も、エイリアンだったりジュラシックパークだったり、当時から見ても一昔前のハリウッド映画の焼き直しっぽくて目新しくない。

 自衛隊の描写も中途半端で、戦闘機周りの描写以外では掘り下げが少なく、実在する組織としての説得力が薄い。ここら辺は平成ガメラシリーズ(1995~1999)が素晴らしく、さらなる向上か少なくとも同じくらいの基準を期待していたので残念だった。架空の機関BCSTがウルトラシリーズお馴染みの防衛軍の上層部っぽくて、別に自衛隊じゃなくていいように見えてしまうのも非常にもったいない。

 しかし、ウルトラマンの登場しているシーンはすべて魅力的だ。1戦目の屋内戦はザ・ワンと人間だけではただのジュラシック・パークだったのが、人型の存在が格闘戦を行うだけで一気に画が刺激的になる。人間と比べられる程度の巨大さと天井の低さが異様な臨場感を醸している。

 そして、2戦目に置ける空中戦には本作の魅力のすべてが詰まっていると言っていい。ウルトラマンザ・ワンの複雑な造形を違和感なく再現する美麗なCGもさることながら、あの空中戦において何より際立っているのはアングルだろう。大きな緩急のついたウルトラマンの変則的な動きと町や雲などの背景の移動が今作独自の迫力ある空戦を描き出している。ドラマ面でもこれまでやってきたことがこの場面に集約されており、パイロットとして、親としての真木の覚悟が見える山場である。

 以上、今作はいち映画としては中途半端な点が多いが、ウルトラマンという超越的存在の解釈や空中戦のすばらしさなど、ウルトラシリーズにおいても特撮映画史においても一定の価値を持った作品であると言える。なんだかんだ大好きな作品なんだよなこれが。ネクサスも今度観よう。

 

(2022年6月8日追記)

仮面の話

 忘れてた。定番コーナー化したいのに。

 今作のウルトラマンの外見は前述のとおり生物的であり、特にジュネッスは全身に鮫を思わせる流線形のヒレがあり、これは戦闘機の翼のイメージでもあるのだろう(か初代ウルトラマンでスーツの構造の都合でつけられた背中のヒレがシン・ウルトラマンで削除されているのと対照的)。特に後頭部のヒレが印象的で、タロウやレオの角とは違ったシルエットを作っている。ネクサスも同様で、この造形はニュージェネレーションのウルトラマンと並べても非常に個性的だ。かなり複雑な造形をしているウルトラマンエックスやエクシードエックスとネクサスが並んだ時ほとんど違和感がなくて、これが「時代が追いつく」ということかと感心した。